産後ケアに向き合う理学療法士の視点

産後の体の変化や腰痛、骨盤まわりの不安定感——こうした悩みは「産後だから仕方ない」と思われがちですが、理学療法士が関われることは意外と知られていません。

今回は、産前産後リハビリに特化して活動する理学療法士・田中 恵さんに、現場で感じていることや、女性の体に寄り添うケアについてお話を伺いました。「もっと早く相談してほしかった」という言葉の背景にある、現場のリアルをお届けします。

女性ヘルスに関わるようになったきっかけ

理学療法士になったのは、学生時代に父がけがをして、リハビリで回復していく姿を間近で見たのがきっかけでした。「人が動けるようになる瞬間に関わりたい」という気持ちが、この仕事を選ぶ一番の理由になりました。

最初は整形外科のリハビリに関わっていましたが、女性ヘルスの領域に目が向いたのは、ある産後の患者さんとの出会いがきっかけです。産後8ヶ月で来院されたその方は、腰痛と骨盤まわりの強い痛みを抱えていました。「産後はこんなものだと思って、ずっと我慢していました」という一言が、ずっと頭から離れなくて。

「産後の不調は我慢しなくていい。リハビリで対応できるんだ。」と気づいたとき、自分がもっとこの領域を知らなければと強く感じました。それから産前産後ケアや骨盤底筋の専門的な研修を受け、今の活動につながっています。

この領域に関わるようになってから一番感じるのは、「知られていない」ということです。理学療法士が産後の腰痛や尿もれに関われることを、ほとんどの方が知らない。知っていれば、もっと早く来てもらえたのにと思うことが、今でも少なくありません。

現場ではどんな悩みを抱える方が多いですか

産後の腰痛と、骨盤まわりの痛みが最も多いです。抱っこや授乳、おむつ替えなど、育児動作の多くが前かがみの姿勢になるため、腰や骨盤に負担が集中しやすいんですね。

次に多いのが尿もれです。「くしゃみをしたときに少し漏れる」「急に我慢できなくなった」という方が多いのですが、相談するまでにかなり時間がかかっている方がほとんどです。「こんなことを相談していいのかな」と思っていたとおっしゃる方が多くて。

来られる方の背景はさまざまですが、産後6ヶ月以上経ってから来院される方が多い印象があります。「産後しばらくしたら自然に治ると思っていた」「育児が落ち着いてから考えようと思っていた」と。

もう一つ印象的なのは、体型の変化や姿勢の崩れを気にして来られる方です。「産後から姿勢が悪くなった気がする」「おなかに力が入りにくい」という訴えは、骨盤底筋や体幹の機能低下が関係していることが多く、見た目の問題だけではないことをお伝えすると、驚かれることがよくあります。

「もっと知られてほしい」と思うのは、産後の不調は我慢するものではないということです。痛みや尿もれは、体からのサインです。早めに相談することで、回復の選択肢が広がることを、もっと多くの方に知ってほしいと思っています。

女性の体のケアで大切にしていること

一番大切にしているのは、「今その方の体に何が起きているか」を丁寧に見ることです。産後の体は人によって状態がまったく違います。出産方法、育児の状況、睡眠、体力——それぞれが違うため、同じ症状でも対応は変わります。

骨盤底筋のケアについては、特に「ゆるめること」の大切さを伝えるようにしています。骨盤底筋というと「締める・鍛える」というイメージが強いのですが、実は力が入りすぎている、力の入れ方がわからない状態の方も多くて。締めることとゆるめること、その両方ができることが大切なんです。

産後のリハビリが一般的なリハビリと違う点は、体の回復と育児が同時進行していることです。休みながら回復できる状況ではない中で、無理のない範囲で体と向き合っていただく必要があります。だから「頑張りすぎないこと」も、ケアの一部だとお伝えしています。

誤解されていることとして多いのは、「産後は骨盤矯正をしなければいけない」という思い込みです。骨盤の形を「矯正」するイメージよりも、骨盤まわりの筋肉がきちんとはたらけるようになること、日常動作の中で体への負担を減らすことの方が、実際には大切なことが多いです。

理学療法士に相談できること

産後の腰痛や骨盤まわりの痛み、骨盤底筋の悩み、尿もれ、抱っこや授乳の姿勢、体幹が使いにくい感じ——こうした悩みは、すべて理学療法士に相談できます。

「病院に行くほどではないかも」と思っている方も多いのですが、痛みが軽いうちに相談していただく方が、回復への選択肢が広がることが多いです。

「どのタイミングで相談すればよいか」とよく聞かれますが、「気になったとき」が一番のタイミングだと思っています。産後1ヶ月でも、半年後でも、1年以上経っていても、相談する意味はあります。

理学療法士の強みは、「動き方や体の使い方まで一緒に考えられること」です。痛みの原因を整理しながら、日常生活の中でどう体を使えばよいかを提案できるのが、理学療法士ならではの関わり方だと思っています。

この記事を読んでいる方

産後の不調は、「仕方ない」ことでも「我慢すること」でもありません。

育児で毎日体を使いながら、自分のことは後回しになってしまう方がたくさんいます。でも、体からのサインを無視し続けると、回復に時間がかかることもあります。

「こんなことで相談していいのかな」と思う必要はありません。小さな違和感でも、気になることがあれば、ぜひ一度相談してみてください。あなたの体のことを、一緒に考えさせてください。

プロフィール

田中 恵|理学療法士

産前産後ケアを中心に活動。
産後の腰痛や骨盤ケア、女性の運動支援に取り組む。

東京都を中心に活動。

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本記事は取材をもとに編集部が構成しました。登場する人物名は仮名です。