産後の肩こり・腱鞘炎で悩んでいませんか?
産後、授乳や抱っこをしているうちに「肩がこるようになった」「手首や親指のあたりが痛い」と感じる方もいるかもしれません。
産後の肩こりや手首の痛みには、授乳姿勢や抱っこの負担に加えて、胸郭の動きにくさが関係している場合があります。胸郭とは、肋骨・胸骨・背骨でつくられる胸まわりの骨格のことです。
この記事では、産後の肩こりや腱鞘炎が起こりやすい理由、授乳姿勢の見直し方、自宅でできる胸郭ケアについて、理学療法士の視点から分かりやすく解説します。
この記事で分かること
- 産後に肩こり・腱鞘炎が起こりやすい理由
- 自宅でできる胸郭・手首のセルフケア
- 授乳時に意識したい姿勢のポイント
- 医療機関や専門家に相談した方がよい目安
まず知っておきたいこと
産後の肩こりや腱鞘炎には、授乳姿勢、抱っこ、胸郭まわりのこわばり、手首の使い方などが関係することがあります。
症状が軽い場合は、授乳姿勢を見直したり、胸まわりや手首を無理のない範囲で動かしたりすることで、負担の軽減につながる場合があります。
ただし、痛みが強い場合や、しびれ・腫れ・熱感がある場合、日常生活に支障が出ている場合は、自己判断で続けず医療機関や専門家に相談しましょう。
産後に肩こり・手首の痛みが起こりやすい理由

産後は、赤ちゃんのお世話によって、首・肩・腕・手首に負担がかかりやすい時期です。
特に授乳や抱っこでは、腕を身体の前で使う時間が長くなります。同じ姿勢が続くことで、肩まわりや胸まわりの筋肉がこわばりやすくなることがあります。
また、産後は睡眠や休息の時間が不規則になりやすく、疲労がたまりやすい時期でもあります。身体の回復途中に育児動作が重なることで、不調につながりやすいといわれています。
授乳や抱っこで同じ姿勢が続きやすい
授乳中は、赤ちゃんを支えるために前かがみになったり、肩がすくんだりしやすくなります。
赤ちゃんの顔を見ようとして背中が丸くなることも多く、胸まわりの筋肉が縮こまりやすい姿勢になりがちです。
その姿勢が長時間続くと、首・肩・背中・腕に負担がかかり、肩こりにつながりやすくなります。
手首や親指に負担がかかりやすい
赤ちゃんの頭や体を支えるとき、手首を反らせたまま支えたり、親指を大きく開いた状態が続いたりしていませんか。
このような姿勢が繰り返されると、手首や親指の腱に負担がかかりやすくなります。
産後の腱鞘炎では、親指の付け根や手首の親指側に痛みを感じることが多いです。また、抱き上げる動作や、哺乳瓶・スマートフォンを持つ動作で痛みが出ることもあります。
胸郭まわりがこわばりやすい
胸郭は、呼吸や姿勢、肩まわりの動きに関係しています。
授乳や抱っこで背中が丸くなった姿勢が続くと、胸まわりの筋肉がこわばりやすくなります。胸郭の動きが小さくなると、呼吸が浅くなったり、肩や首の筋肉に力が入りやすくなったりする場合があります。
その結果、肩こりや上半身の痛み・重だるさにつながることがあります。
産後の体の変化については、以下の記事でご紹介しています。
胸郭とは?産後の姿勢や呼吸との関係

胸郭は、肋骨・胸骨・背骨でつくられる胸まわりの骨格です。肺や心臓を守るだけでなく、呼吸や姿勢を支える役割もあります。
胸郭がしなやかに動くことは、深く呼吸するためにも、肩や背中を動かしやすくするためにも大切だと考えられています。
胸郭には、大胸筋・小胸筋・前鋸筋などの筋肉が関係しています。大胸筋や小胸筋は胸の前側にある筋肉で、前鋸筋は肋骨と肩甲骨の動きに関わる筋肉です。
これらの筋肉がこわばると、肩が前に入りやすくなったり、胸を広げにくくなったりすることがあります。
授乳姿勢が肩こり・腱鞘炎に関係する理由
授乳中は、赤ちゃんを支えながら同じ姿勢を続けることが多くなります。
このとき、赤ちゃんに自分の身体を近づけようとして前かがみになると、首や肩に負担がかかりやすくなります。また、腕だけで赤ちゃんの重さを支えようとすると、肩・肘・手首への負担も増えやすくなります。
特に次のような姿勢は、肩こりや手首の痛みにつながりやすいといわれています。
- 背中が丸くなっている
- 肩がすくんでいる
- 赤ちゃんを支える位置が低い
- 肘から先だけで赤ちゃんを支えている
- 手首を反らせたまま支えている
- 同じ側ばかりで抱っこしている
授乳姿勢を整えることは、肩や手首への負担を減らすための1つの工夫です。

胸郭ケアで確認したいポイント
胸郭まわりの状態を確認するときは、難しく考えすぎる必要はありません。
まずは、次のような点をチェックしてみましょう。
- 深く息を吸いにくくないか
- 胸まわりにこわばりを感じないか
- 肩を動かしたときに動きにくさがないか
- 左右で動かしやすさに差を感じないか
- 授乳後に首や肩が重くならないか
- 手首や親指に痛みが出やすくないか
気になる点がある場合は、無理のない範囲で胸まわりや肩、手首を軽く動かすケアを取り入れてみましょう。
ただし、痛みが強いときや、動かすことで症状が悪化する場合は、無理に行わないでください。
自宅でできる胸郭・手首のセルフケア
症状が強くない場合は、日常生活の中でできる軽いセルフケアが負担の軽減につながることがあります。
ここでは、授乳の合間や休憩時間に取り入れやすい方法を紹介します。

胸を開くストレッチ
両手を身体の後ろで軽く組み、胸を開くように肩甲骨を寄せます。
呼吸を止めずに、10〜20秒程度キープしましょう。強く反らせる必要はありません。胸の前側が心地よく伸びる程度で行います。
肩や腕に痛みが出る場合は、無理に続けないようにしましょう。
胸郭を動かす深呼吸
椅子に座り、背中を軽く伸ばします。
息を吸いながら胸まわりが広がる感覚を意識し、吐きながら肩の力を抜きます。3〜5回を目安に、ゆっくり繰り返しましょう。
胸郭全体をやさしく動かすことで、呼吸のしやすさや肩まわりの力みの軽減につながる場合があります。
手首・指のストレッチ
片方の手で、反対側の指を軽く反らせます。
前腕の筋肉が伸びる感覚があれば十分です。強く引っ張りすぎないようにしましょう。
授乳の合間や、抱っこが続いたあとに取り入れると、手首や前腕の負担を軽減する助けになることがあります。
肩まわりを軽く動かす
肩をすくめてから力を抜く、肩をゆっくり回すなど、簡単な動きでもかまいません。
授乳後や抱っこのあとに、数回だけでも肩まわりを動かすことで、同じ姿勢によるこわばりを和らげやすくなります。
痛みが出ない範囲で、気持ちよく動かせる程度に行いましょう。
産後の運動については、以下の記事でもご紹介しています。
授乳時に意識したい姿勢のポイント

授乳中の姿勢を見直すときは、「赤ちゃんを自分の身体に近づけること」と「腕だけで支えないこと」が大切です。
前かがみになって赤ちゃんに近づくのではなく、クッションなどを使って赤ちゃんの位置を高くすると、首や肩への負担を減らしやすくなります。
次のような点を意識してみましょう。
- 赤ちゃんを自分の身体に近づける
- 自分が前かがみになりすぎない
- 授乳クッションで赤ちゃんの高さを調整する
- 肘や前腕をクッションで支える
- 足裏が床につく高さに椅子を調整する(足台を使う)
- 肩がすくんでいないか確認する
- 手首を反らせたまま支え続けない
- 同じ姿勢が続いたら、合間に肩や胸を軽く動かす
授乳姿勢は、毎回完璧に整える必要はありません。少しでも楽に続けられる姿勢を見つけることが大切です。
日常生活でできる工夫
授乳以外の育児動作でも、肩や手首には負担がかかります。
特に、抱っこやスマートフォンの使用、家事の動作が重なると、首・肩・腕・手首の疲れにつながることがあります。
日常生活では、次のような工夫を意識してみましょう。
- 抱っこの左右差を減らす
- 片方の腕だけに負担をかけ続けない
- スマートフォンを見るときは、うつむきすぎない
- 抱っこ紐の高さを見直す
- 赤ちゃんを抱き上げるときは、手首だけで支えない
- 休めるときに肩・胸・手首を軽く動かす
小さな工夫でも、毎日の積み重ねによる負担を減らす助けになることがあります。
理学療法士に相談すると何ができる?

理学療法士は、肩こりや手首の痛みに対して、身体の状態や日常生活の動きを確認しながら、負担を減らす方法を一緒に考える専門職です。
産後の不調は、1つの原因だけで起こるとは限りません。授乳姿勢、抱っこの方法、胸郭や肩甲骨の動き、首や手首の使い方など、複数の要素が関係している場合があります。
理学療法士に相談すると、次のようなことを確認できます。
- 授乳姿勢や抱っこの姿勢
- 胸郭・肩甲骨・首・手首の動き
- 肩や腕に負担がかかりやすい動作
- 自宅でできるセルフケア
- 生活に合わせた体の使い方
- 痛みが出にくい抱き上げ方や支え方
産後の生活に合わせて、無理なく続けられる方法を見つけることが大切です。
医療機関や専門家に相談した方がよい目安
軽い肩こりやこわばりであれば、姿勢の見直しやセルフケアで負担が軽くなる場合があります。
ただし、次のような症状がある場合は、自己判断で続けず、医療機関や専門家に相談しましょう。
- 手首や親指の痛みが強い
- 抱っこや授乳に支障がある
- しびれがある
- 手首や指に腫れや熱感がある
- 肩・首・腕の痛みが長く続く
- セルフケアをすると症状が悪化する
- 夜間も痛みが気になる
- 乳房の強い痛み、赤み、発熱がある
乳房の痛みや発熱がある場合は、乳腺炎などの可能性もあるため、助産師や産婦人科などに相談することも大切です。
よくある質問

Q. 産後の肩こりストレッチはいつからできますか?
体調が落ち着いていて、痛みが強くない場合は、無理のない範囲で軽いストレッチから始められることがあります。
ただし、産後の回復には個人差があります。出産後すぐの時期や、痛み・出血・強い疲労感がある場合は、無理に行わないようにしましょう。気になる場合は、医療機関や専門家に相談してください。
Q. 授乳クッションは肩こり予防に役立ちますか?
授乳クッションは、肩や腕への負担を軽減する助けになることがあります。
赤ちゃんの位置が低いと、前かがみになりやすくなります。クッションで高さを調整し、赤ちゃんを自分の身体に近づけることで、首や肩の力みを減らしやすくなります。
Q. 産後の腱鞘炎がつらいときは何科に相談すればよいですか?
手首や親指の痛みが強い場合は、整形外科などの医療機関に相談しましょう。
痛みが続く場合や、抱っこ・授乳に支障がある場合は、早めに相談することが大切です。必要に応じて、医師の診察を受けたうえで、理学療法士などの専門家に動作やセルフケアについて相談する方法もあります。
Q. 胸郭ケアだけで肩こりや腱鞘炎は改善しますか?
胸郭ケアだけで、すべての肩こりや腱鞘炎が改善するとは限りません。
産後の不調には、授乳姿勢、抱っこ、手首の使い方、睡眠不足、疲労など、さまざまな要素が関係することがあります。胸郭ケアは、上半身の負担を軽くするための1つの方法として考えるとよいでしょう。
まとめ

産後の肩こりや腱鞘炎には、授乳姿勢や抱っこ、胸郭の動きにくさ、手首の使い方などが関係している場合があります。
まずは、赤ちゃんの位置を調整する、腕だけで支えない、授乳の合間に肩や胸を軽く動かすなど、無理のない範囲でできる工夫から始めてみましょう。
痛みが強い場合や、しびれ・腫れ・熱感がある場合、日常生活に支障が出ている場合は、自己判断で続けず、医療機関や専門家に相談することが大切です。
産後は、身体への負担が積み重なりやすい時期です。自分の身体の状態にも目を向けながら、少しずつケアを取り入れていきましょう。
この記事は理学療法士監修のもと作成し、一般的な医療情報を提供することを目的としています。
症状や不安な点がある場合は、医療機関へ相談してください。
参考文献
- 「日本ウィメンズヘルス・メンズヘルス理学療法学会」
- 「エビデンスに基づく助産ガイドライン2024」(一般社団法人 日本助産学会・2024年11月発行)
- 「WHO推奨:ポジティブな産後体験のための母子のケア」(国立研究開発法人国立成育医療研究センター研究所・2024年日本語訳発行)
- 「慢性疼痛診療ガイドライン」(監修:厚生労働省 慢性の痛み政策研究事業・2021年7月発行)
Women’s PT Mediaでは、産後の体の変化やセルフケア、女性の健康に関わる理学療法士の知識を分かりやすく発信しています。関連する記事もぜひご覧ください。





